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一期一会のうつわの表情を追い求めて|陶芸家 𠮷田太郎

一期一会のうつわの表情を追い求めて|陶芸家 𠮷田太郎

「その個体差が味になる」

うつわづくりの生産背景を知るたびに、改めてそう思うようになりました。釉薬が混ざり合う表情、炎の軌跡や焼けムラ、手作業ならではのあたたかみのあるかたち…同じ意匠のうつわでも、よく見るとひとつとして同じものはありません。そんな風に、人の手が及ばない自然が生み出すうつわの表情に惹かれるようになりました。

「mor」では、石川県小松市を拠点に活動する陶芸家・𠮷田太郎さんの作品を取り扱っています。2,000種類以上の釉薬を試作し、現在の作風に辿り着いたという太郎さん。釉薬の流れるような表情や質感、土や炎の力強さを感じさせる作品の数々に惹かれて、お声掛けをしました。

今回は、釉薬や土もののうつわに魅せられ、日々ものづくりに取り組む太郎さんにお話を聞きました。

聞けば聞くほど釉薬の世界は奥深く、面白いなぁと感じた工房見学やインタビューの機会でした。釉薬の面白さや、一点もののうつわを選ぶ楽しさが伝わると嬉しいです。


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自然が生み出す表情に惹かれて

𠮷田さんのうつわを初めて見た時、釉薬や炎の軌跡のような、自然が生み出す表情が美しくて、強く印象に残っていたのを覚えています。いまの作風への変遷をお伺いできますか。

僕が生まれ育った「錦山窯」では、絵付けのうつわをつくっています。小さい頃から日常使いのうつわといえば、絵付けが施されたものや、金彩があしらわれたものばかりで……それが焼きもののすべてだと思っていたんです。

転機になったのは、大学時代でした。陶芸コースのある京都の大学に進学して、そこで初めて薪窯でうつわをつくったんです。その時に、土や釉薬や灰が溶けて、いい意味で「なんだこれ」みたいなものが仕上がって……それがすごく衝撃でした。そこから土もののうつわや、釉薬をかけたものに惹かれていきました。

当時、同級生に陶芸家の小野鯛くんがいて、鯛くんのお父さんは陶芸家の小野哲平さんだったんです。ふたりと関わるようになってから、どんどん土ものや釉薬の世界にのめり込んでいった感じですね。

そうだったんですね。小野哲平さんのうつわは、見るたびにいつも「いいな」と思っていたので驚きました。

そうなんです。本当にいい出会いでした。ふたりに出会っていなかったら、今の作風にはならなかったと思います。

私も釉薬が生み出す表情が好きなので、𠮷田さんのうつわもそこに惹かれました。釉薬の種類を絞って展開されてますが、ラインナップに加わる色はどんなものが多いのでしょうか?

釉薬の表情や触り心地で決めています。僕は窯焚きの時に、毎回いくつかテストピースを入れるんです。現在、展開しているものはどれもテストの際に一目惚れした色みですね。

そうなんですね。現在のラインナップはかなりの猛者たちというか……選ばれた色なんですね。𠮷田さんが考える釉薬の魅力や面白さを教えてください。

はい。僕にとって好みの色や質感のものですね。釉薬は灰や鉱物を調合してつくっていて、焼く前は粉みたいなものなんですけど、窯に入れて溶かすことによって、色や質感が出てくるんです。すごく不思議なものですよね。釉薬の表現は無限で、同じ調合でも窯の焚き方で全然違うものになる。それが面白いんです。

最初に釉薬と出会うのは、小さなテストピースなんですが、「次はどんなものが出るんだろう」と、毎回テストピースが入った窯を開けるのが楽しみで。僕にとっては窯が宝箱のように見えるんです。

うつわや花器に釉施するとまた違う表情が見られます。そこでもまた一つ感動がありますね。

釉薬って本当に無限の表情があるんですね。かつ、偶発的な出会いがあるのも面白いですよね。

そうですね。本当に一目惚れするような感覚です。これまで2,000種類以上のテストピースを焼いてきましたが、全然飽きないです。

2,000種類以上の試作を経て、生まれた釉薬の魅力

今回、「mor」ではグレーと白のものを中心に取り扱う予定です。それぞれの色みの特徴をお伺いできたらなと思います。

グレーの釉薬は、僕の作品の中で一番最初につくった釉薬なんです。煙を閉じ込めたような奥行きのある表情が好きですね。陶器特有の硬さがありながらしっとりとしていて、触れた時の質感も心地いいです。

鎌倉のレストラン「enso」でも使っていただいているんですが、料理を盛り付けても馴染みます。どんな料理にも柔軟に寄り添ってくれるような、包み込んでくれるような、そんなイメージがあります。

ダークトーンの色みやシャープな雰囲気のものが好きな方にこそ、おすすめしたい色だなと思います。一方で、靄がかかったようなグレーや白の部分もあるので、「真っ黒は重すぎる」と思われている方にも合いそうです。使いやすそうな色みですよね。

そうですね、そう思います。

白の方はいかがですか。

白の釉薬は、最初はうつわには使っていなかったんです。フラワーショップ「VOICE」での個展を機につくり始めた釉薬で、花器に使用したらいい表情に仕上がりました。

そこから花器用の釉薬として使うようになり、その後うつわにも使うようになったんです。

白の中にさまざまなグラデーションがあって、マットな印象でありながら、わずかにガラス質な部分もあります。透明感があり、貝や海辺を思わせるような表情ですね。

グレーは陶器で、白は磁器ですよね。どちらも電子レンジ、食洗機にも使えると聞いて驚きました。使い勝手のよさもうれしいです。

はい、僕も毎日使ってるんですけど、全然大丈夫です。ただ、白は磁器なので、急激な変化には気をつけてもらいたいですね。

花器はお子さんのお尻をイメージしてつくられたと以前お伺いしましたが、うつわの方も洗練されたフォルムだなと思います。かたちに関して、ものづくりの源泉はありますか?

服が好きで、ものづくりのインスピレーションにもなっています。特に花器は、服の膨らみや、袖のシルエット、生地の質感、靴や鞄のディテールなどからヒントを得ることもありますね。

うつわに関しては、手に馴染むような形状を追求しています。うつわを手に取った時に、その質感や曲線を感じられるようなかたちをイメージしながら制作していますね。

使い込んで“日常”の一部に

𠮷田さんは九谷焼の伝統的な窯元「錦山窯」の出身でありながら、独自の美学を追求されています。現在のものづくりに、錦山窯のエッセンスがどのように生かされていますか。

「錦山窯」に帰ってきて、働きながら自分の作品をつくってたんですけど、やればやるほど真逆のことをしてるなと思ってて。

「錦山窯」の仕事は職人技。人の手で描く技術を高めて取り組んでいます。対して、僕の作品づくりは、火で焼いて自然に任せるようなイメージ。

両極端な表現を目にできる今の環境だからこそ、美意識や仕事に対する姿勢など、無意識に影響を受けている部分は多いと思います。

ありがとうございます。今後、挑戦してみたいことはありますか。

今後は、海外での個展の機会を増やして行きたいです。錦山窯で運営しているギャラリー「嘸旦 MUTAN」にも、海外の方がよく来られて、僕の作品を見て「美しい」と言ってくれたり、買ってくれたりするんです。

もの自体に宿る力が、言語や文化の違いを超えて伝える力を持っているなと感じるので、それが面白いなと感じますね。

素敵ですね。ありがとうございます。最後に、うつわを手に取られる方に伝えたいことはありますか?

毎日使っていると少しずつ質感や雰囲気が変わってきます。その変化を楽しんでほしいし、そこまで変化するぐらい、ガシガシ使ってほしいなと思いますね。

僕は自分の作品にはサインをしていなくて……最終的には、僕がつくったものだって忘れてほしいんですよね。それ以上にその人の一部になってほしいと思うので。

“ハレの日”だけでなく、日常の中でも使い込んでいただいて、心地よくなってくれたら嬉しいです。

Profile

陶芸家 𠮷田太郎

1994年、石川県小松市生まれ。九谷焼の伝統的な窯元「錦山窯」で育ち、2017年に京都精華大学陶芸コースを卒業。大学時代に薪窯での制作を経験し、釉薬や炎が生み出す偶発的な表情に魅了される。卒業後は「錦山窯」で職人として働きながら、2,000種類以上の釉薬を試作し、自然が描く唯一無二の表情を追求。釉薬の質感や炎の軌跡を活かし、うつわや花器など幅広い作品を展開。

陶芸家 𠮷田太郎